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開城工団の人々

https://www.amazon.co.jp/dp/488503244X

開城工団の人々 毎日小さな統一が達成される奇跡の空間
キム・ジニャン他著 塩田今日子 訳

訳者まえがき

「開城工団の人々」は、韓国と北朝鮮の合弁事業である開城工業団地で働いていた韓国人の証言の記録です。開城工団事業は2000年に始まり、南北関係の悪化によってさまざま紆余曲折を経ながらも、2016年2月まで続いていました。
 開城工団では、政治体制も、考え方も、生き方も全く異なる南北の労働者たちが、突然共に働くことになりました。彼らは同じ民族であるにもかかわらず、政治的には70年も敵対関係にあったのです。しかし彼らは互いにぶつかり合いながらも、少しずつ互いに対する理解を深めつつ、協力し合うことを学んできました。
 世界中にはさまざまな対立や紛争があり、未だに出口が見えない状態が続いています。どんなに強大な軍事力をもってしても、自分の敵を完全に壊滅させることはできません。これから世界は、自分の敵と「敵対」するのではなく、「共存」する方法を模索しなければならないのです。そのヒントとして、この開城工団での体験談は、とても重要な示唆を与えてくれるはずです。すなわち、「自分の敵との共存」の実現可能性についてと、そのための実践的な方法論についてです。
 互いに敵対するものは、正反対であることが多いのですが、それは言いかえれば、互いに自分にないものを持っているということです。すなわちお互いに補い合える存在であると言うことができます。もしも、敵同士(互いに補い合える人々)が、喧嘩をするのではなく、協力することに転じたら、そこにはとてつもなく素晴らしいエネルギーが生れることでしょう。開城工団での体験談がそのことを語ってくれています。これは個人と個人、男と女の関係においても言えることです。
 このように、この本は、単に南北朝鮮の問題にとどまらず、我々すべての人々にとって、これからの世の中を生きる上でも大変参考になるものです。これが私がこの本を翻訳しようと思った第一の理由です。
 もうひとつの理由は、南北朝鮮の統一に関してです。
 南北朝鮮は同じ民族でありながら、第二次世界大戦後の世界情勢の中で、南北に分断され、引き裂かれた離散家族が互いに連絡すら取ることが難しい状態が続いています。戦前、朝鮮半島を植民地支配してきた日本には、この分断に関して、直接的ではないにせよ、責任の一端があることは否定できません。ですから、日本には南北の統一を手助けする義務があると私は思うのです。開城工団は、『毎日小さな統一が成し遂げられている奇跡の場所』と言われます。その開城工団について日本の方々に広く知っていただければ、少しでも南北統一の手助けになるのではないか、と思ったのが第二の理由です。
 この本にはその他にも、ベールに包まれた北朝鮮の普通の人々の日常についてのエピソードなど、興味深い内容がたくさん含まれています。
 ぜひ、多くの方が開城工団について知ってくださって、今まで敵対していた人々が互いに協力し合える世の中を創るきっかけとなれば、と思います。

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