○△子ちゃん
二男がまだ、2歳頃、隣に住んでいた頃の話である。
あるとき、○○子さんと私を前に、彼は紙に絵を描いていた。とてもおおざっぱな絵であるが、人を書いていることはすぐにわかった。1、2、3、4、5人。
彼はひとりひとり指さしながら、言う。パパ。ママ。お兄ちゃん。僕。でも、そこにはもう一人。私はてっきり、私を書いてくれたのだと思い、これは誰?と聞いてみた。
「○△子ちゃん!」
「○△子ちゃん?」
「○△子ちゃんって、誰?」
と、私と○○子さんは顔を見合わせながら互いに訊いた。二人とも知らない。彼の幼稚園のお友達でもないし、テレビの中のキャラクターでもない。一体誰だろう?
でも、私はそのことをすぐに忘れてしまった。ところが、それから1年以上経って、隣の一家が遠くに引っ越したあと、○○子さんから電話がかかってきた。
「ねえ、○△子ちゃん、見つけたよ。」
「○△子ちゃん?」
「ほら、彼が絵を描いたじゃない? 彼のお友達の妹で、生後六ヶ月よ。」
私ははじめはその話を半信半疑で聞いていたが、彼が○△子ちゃんととても仲がいいという話を聞いて、私ももしやと思い、一度その子に会ってみたい、と思うようになった。
それから何年かして、私は彼らに会いに行く機会があった。○○子さんと歩いていると、何の約束もしていないのに、通りで、4才になった○△子ちゃんにバッタリ出会ってしまった。
私達が○△子ちゃんと遊んでいると、別行動をしていた二男もそこにやってきた。そして私は見てしまったのだ! 彼が○△子ちゃんにキスをするのを!
二男が○△子ちゃんの絵を描いたのは彼女が生まれる前である。彼は彼女が生まれる前から、彼女の名前を知っていたことになる。
してみると、私の名前をつけてくれた父も、私の伴侶となるべき人の名前を知っていたのだな。
2004.3.11